空が青いのに、そこに浮かぶ雲は白い。夕方には、その雲まで赤く染まります。違いをつくるのは、光を散らばらせるものの大きさと、光が通ってきた道のりです。写真で見える色から、気体を使った実験へと、仕組みをたどってみましょう。
紫の光も散らばるのに、なぜ青い?
太陽の光には、赤から紫まで、さまざまな色の光が含まれています。色の違いに対応するのが「波長」。波の山から次の山までの間隔で、赤い光は長く、青や紫の光は短くなります。
空気をつくる窒素や酸素の分子は、目に見える光の波長よりずっと小さなものです。こうした分子によって光の進む方向が変わるとき、短い波長の光ほど強く散らばります。これをレイリー散乱と呼びます。太陽のある方向からだけでなく、空のあちこちから散らばった光が目に届くので、空に色が見えます。NASAの解説
それなら、青より波長が短い紫の空になりそうです。ここでは、散らばりやすさ以外も考える必要があります。英国の気象機関Met Officeは、太陽光にはもともと青より紫の光が少ないこと、人の目は紫より青に敏感であることを挙げています。Met Officeの解説
散らばりやすい色と、人が感じる色は同じではありません。 どんな光がどれだけ届き、それを目がどう受け取るかまで含めて、空は青く見えるのです。
青い光は、どのくらい散らばりやすい?
波長の違いは、小さくても散乱の強さに大きく効きます。レイリー散乱の基本的な近似では、散乱の強さは「波長の4乗」に反比例します。同じ条件で波長だけを半分にすると、散らばりやすさは2×2×2×2で16倍になる、という関係です。大気散乱の技術資料
青の例として450 nm、赤の例として650 nmを比べてみましょう。nmはナノメートルで、1メートルの10億分の1です。波長以外の要因を同じと置くと、青と赤の散らばりやすさの比は、(650÷450)の4乗で約4.35になります。
ただし、これは波長の影響を取り出した計算です。「写真の青い部分が赤い部分の4.35倍明るい」という意味ではありません。実際の気体では、光の進み方に関わる屈折率などにも波長による違いがあります。空の明るさを求めるには、太陽光の各色の量、通る空気の量、見る方向なども考える必要があります。
この区別は、雲を考えるときにも役立ちます。分子で成り立つ近似を、そのまま大きな水滴に当てはめることはできないからです。
同じ空にある雲が、白いのはなぜ?

S’COOL: Cumulus Clouds — Cumulus over the Rocky Mountains · 写真:NASA / Jeff Caplan · NASA Media Usage Guidelines。WebP変換のみ。原画像の構図・上端の表記を維持。
写真には、青い空を背景に、白く明るい部分と灰色の部分を持つ雲が写っています。NASAの写真説明では、2001年8月、ロッキー山脈での飛行試験中に撮影された積雲です。まず、背景の青と雲の白を比べてみてください。
この違いには、光を散らばらせるものの大きさが関係します。雲をつくる小さな水滴は、空気の分子に比べればずっと大きく、青だけを強く散らばらせるわけではありません。可視光のさまざまな色を、おおむね同じように散らばらせます。太陽光に含まれていた色が混ざって目に届くので、白く見えるのです。雲の色の解説
では、同じ雲の暗い部分はどうでしょう。雲の中で光は何度も向きを変え、上や横へ出ていく光もあります。底まで届く光が少なくなると、下から見た雲は灰色に見えます。水そのものが白から灰色に変わったと考える必要はありません。
ここで写真が教えてくれるのは、色や明暗が一つの空に共存することです。水滴の大きさや雲の厚さを、この写真だけから測ったわけではありません。見える現象と、その原因を調べる測定は分けて考えられます。
夕焼けでは、青い光はどこへ行く?
昼と夕方では、太陽光が空気の中を通る距離が違います。太陽が低くなると、こちらへ届くまでに、より長い距離を大気の中で進みます。その途中で青や紫の光がさまざまな方向へ散らばり、太陽の方向から届く光には赤やオレンジが目立つようになります。NASAの解説
青い光が赤い光に変身するわけではありません。もともと含まれていた色のうち、どの光がどの方向へ進むかが変わっています。昼の青空では、空気で散らばって届く光を見ていました。夕焼けでは、大気を長く通ってきた光に注目すると、二つの色がつながります。

Sunset from the International Space Station · 写真:NASA / Expedition 23 crew · NASA Media Usage Guidelines。NASA公開時にトリミング・コントラスト調整・レンズ由来のアーティファクト除去済み。BREWではWebP変換のみで、追加のトリミングなし。
ISSから撮った夕暮れにも、地球の縁に沿う橙色と、その上の青が写っています。宇宙から大気を横切る方向に見た写真です。NASAの公開画像にはコントラスト調整などが施されているため、色の強さをそのまま測定値として読むことはできません。写真の撮影情報
夕方の雲が赤く染まるのも、雲へ届く光の色が昼と違うためです。「水滴がどの色を散らばらせるか」だけでなく、「そこへどんな光が届くか」を考えると、白い雲と赤い雲の両方を説明できます。
散らばりやすさは、実験で確かめられる?
空全体には雲や微粒子もあるため、分子の働きだけを調べるには、条件を絞った実験が役立ちます。Quanfu Heらが2021年に発表した研究は、二酸化炭素や酸素など5種類の気体を対象に、307〜725 nmの範囲で光の減り方を測りました。温度は約295 K(約22℃)、圧力は約1,020 hPaです。実験論文
装置では、向かい合う鏡の間に気体を入れ、光を何度も往復させます。気体の中を長い距離進ませることで、小さな光の減少を捉えやすくします。単に暗くなった量をすべて散乱と決めつけず、酸素やメタンでは光の吸収も分けて調べています。
論文の図1では、まず最上段の二酸化炭素に注目してください。横軸は波長、縦軸は分子1個あたりの光の減りやすさを面積の単位で表した「断面積」です。この条件の二酸化炭素では吸収の構造が観測されず、著者らは減少をレイリー散乱によるものと扱っています。波長が長くなるほど値が下がり、赤い測定点は屈折率から計算した黒い線とよく重なっています。論文の図1を見る
測定値と計算値の相対的な差は、二酸化炭素で平均0.4%、波長にわたるばらつきを表す標準偏差は1.2%と報告されています。これは「青空の色を誤差0.4%で再現した」という数値ではありません。特定の気体の散乱について、測定と計算がどれだけ合うかを比べた結果です。
測定にも前提があります。装置の校正には、窒素とヘリウムの屈折率に基づく計算値が使われています。また、著者らは鏡の反射率の変化に由来する追加の不確かさを、この研究では数値化できなかったと記しています。計算と実験を照合するときにも、何を基準に測ったかを確かめる必要があります。
分子の性質を装置で測り、その積み重ねから大気中の光の進み方を考える。見慣れた空の青には、目で眺めるだけでは分からない、こうした測定の世界がつながっています。
雨粒を通った光についても、続きを読んでみませんか。二重の虹と、雨粒の中の光では、写真を見ながら虹の色と丸い形をたどります。

