鉛筆を動かすと、紙に黒い線が残ります。インクを足していないのに書けるのは、芯から離れた黒鉛が紙に付くためです。書き続けるうちに先が丸くなることと、紙に文字が現れることは、同じ出来事の二つの面なのです。

六角形の軸の理由から、今度は先端へ目を移してみましょう。黒鉛と粘土、HBや2Bという記号、紙の表面。小さな道具の中には、材料を組み合わせる工夫と、接触する面の科学があります。

芯は、黒鉛だけでできている?

削った鉛筆の黒い芯と周囲の木材、手前の削りくず、奥の金属製鉛筆削り
削った先を見ると、黒い芯を木材が囲んでいることが分かります。芯の材料と、手に持つ軸の材料を分けて見てみましょう。
Sharpened Pencil · 写真:Charles Rondeau / Public Domain Pictures · Public Domain。無料配布の1920×1440画像を1200×900へ縮小・WebP変換。トリミング・色調整なし。

写真では、木の先から細い黒い芯が出ています。三菱鉛筆の解説によると、一般的な黒い鉛筆の芯は、黒鉛と粘土を混ぜて焼き固めたものです。名前に「鉛」があっても、この芯の黒い材料は金属の鉛ではありません。

粘土は、ただ量を増やすために加える材料ではありません。トンボ鉛筆の説明では、芯の形に加工しやすいこと、焼くことで強さなどの性質が向上することが、使う粘土の重要な条件として挙げられています。書いたときに紙へ移る材料と、細い棒の形を保つための材料を組み合わせているのです。

同じ細い芯でも、シャープペンシルまで一律にこの配合で説明することはできません。三菱鉛筆の資料は、0.5mmなどの芯では粘土の代わりにプラスチックを用いる製法を紹介しています。見た目や用途が似ていても、細さに合わせた材料の選び方があります。

なぜ黒鉛は、紙へ移る?

青い背景に置かれた風化した片岩の標本。中央より右に灰色の黒鉛が見える
黒鉛を含む風化した片岩。米国ミネソタ州産、幅約13cm、ノースダコタ大学鉱物コレクション#50。灰色の部分に黒鉛が見えます。鉛筆に使った原料そのものの写真ではありません。
Graphite in weathered schist — GeoDIL #906 · 写真:Darla Sondrol(2001)/ Geoscience Digital Image Library · Public Domain。1200×682へ縮小・WebP変換。トリミング・色調整なし。

黒鉛は炭素からなる鉱物です。写真の標本では、茶色や黒の混ざった岩石の中に灰色の部分が見えます。こうした天然の岩石と、均一な細い棒に加工した鉛筆の芯は、同じものではありません。

原子の並び方まで小さくして考えると、黒鉛には層状の構造があります。日立ハイテクの解説は、炭素原子が平面につながった層が重なり、その重なりの部分がすべりやすいと説明しています。紙とこすれたときに薄い部分がはがれ、紙に付くことで跡ができます。

つまり、紙が触れただけで黒色に変わるわけではなく、材料が芯から紙へ移っています。先端だけを見ていた鉛筆を、紙に残った側から見直すと、「書く」という動きの意味が変わります。元の解説ページには先端を拡大した電子顕微鏡写真もあり、肉眼の接写と見比べられます。

HB・2B・2Hは、何を表す?

HはHard、BはBlackを表す記号です。H側では数字が大きいほど硬く薄い芯に、B側では数字が大きいほど軟らかく濃い芯になります。FはFirmの略で、HとHBの間に置かれます。メーカーの資料が示す並びの一部を取り出すと、次のようになります。

硬め・薄めから位置づけ
2H → HH側
F → HBHとBの間
B → 2BB側

これは数値の足し算や掛け算をする目盛りではありません。「2BだからHBの二倍黒い」と読むものではなく、芯の濃さと硬さの段階を選ぶための記号です。

黒鉛と粘土の配合を変えると、芯の性質も変わります。粘土が多い側では硬く薄くなる、というのが基本です。ただし、その記号を知っただけでは、手元の紙にどのような線が残るかまでは決まりません。次に見るのは、芯が触れる相手です。

紙は、線を受け取るだけ?

紙を平らな白い面として見ていると、線の違いをすべて鉛筆のせいにしたくなります。しかし、紙の表面にも繊維による凹凸があります。芯と紙が触れる場所を考えるには、この細かな地形を無視できません。

紙に鉛筆で電極を作るKimらの実験研究では、印刷用紙とクラフト紙に繰り返し描き、表面の形や黒鉛の付着を調べています。観察されたのは、黒鉛がたまるだけでなく、描く力と摩擦によって表面の粗さも変わるという過程でした。

「同じ場所を何度もなぞる」という動作は、毎回まったく同じ白紙に触れることではないのです。前の線が残した材料と、変化した表面の上に、次の線を重ねています。これは研究を読むためにも、描いた跡を観察するためにも大切な区別です。

濃い鉛筆ほど、電気も通しやすい?

同じ研究は、見た目の濃さではなく、描いた線の電気抵抗も測っています。電気抵抗は、電流の流れにくさを表す量です。比較した鉛筆はHB・2B・4B・6B・8Bで、二種類の紙に50回描いた条件を調べました。

芯そのものでは8Bの抵抗が低かった一方、紙に描いた電極では6Bより8Bの抵抗が高くなりました。著者らは、8Bが軟らかく、紙との摩擦を生む十分な力をかけにくいことと関連づけています。

芯の性質と、紙に作られた線の性質は、同じではありません。 ただし、これは用いた鉛筆と紙、描画条件での結果です。6Bがあらゆる紙で最もよく書ける、最も濃い、と確かめた研究ではありません。測ったのが電気抵抗なのか、黒さなのか、書き心地なのかを分けて読む必要があります。

手元で比べるなら、何をそろえる?

HBと2Bを比べるなら、最初は同じ紙を使い、なるべく同じ長さの線を、同じ回数だけ引いてみてください。次に鉛筆を一本にそろえ、紙だけを替えて描きます。これは実験結果の再現ではなく、違いを観察するための小さな比較です。

手で描く以上、押す力や角度を厳密にはそろえられません。「こちらが濃く見えた」という観察と、「芯の配合だけが原因だ」という説明は分けておきましょう。太さ、濃さ、かすれ方を別々に見れば、単に書きやすいと感じた理由も考えやすくなります。

鉛筆の記号は芯を選ぶ入口になります。その先にある線は、芯と紙が触れ、材料が移り、同じ場所へ重なることでできています。手元の一本を知るには、先端と、先端が残した跡の両方を見る必要があるのです。