夏の昼は長く、冬の昼は短い。それでも、いまの時計で測る1時間の長さは同じです。ところが、昼を12等分し、夜も12等分する方法では、季節によって「1時間」が伸び縮みします。
一日をいくつに分けるか。その一つを、何を基準に測るか。この二つを分けて考えると、日時計から原子時計へつながる問いが見えてきます。
昔の1時間は、いつも60分だった?
NISTの歴史解説によると、古代エジプトでは昼と夜をそれぞれ12に分けました。この方式の1時間は、現在の60分とは限りません。明るい時間が長い季節には、昼の一つ分も長くなります。
計算してみましょう。ここでは昼と夜の合計を現在の時計で24時間とし、それぞれを12等分します。表の単位は、左の列が「時間」、右の二列が「分」です。いずれも現在の時計で測った長さを表します。特定の土地の日の出・日の入りを再現した観測値ではありません。
| 昼の長さ | 昼の区切り | 夜の区切り |
|---|---|---|
| 10 | 50 | 70 |
| 12 | 60 | 60 |
| 14 | 70 | 50 |
昼が14時間なら、840分÷12で70分。残る夜は10時間なので、600分÷12で50分です。同じ日の「1時間」でも、昼と夜で長さが違います。
24という区切りを使うことと、すべての区切りを同じ長さにすることは、別の決め事です。 NISTは、古代ギリシャには一日を等しい24時間に分ける考えがあった一方、長さの変わる時間の区切りは中世後期のヨーロッパでも続いたと説明しています。
日時計は、何を見て時間を読んだ?

Sundial — 57.137.20 · The Metropolitan Museum of Art, Harris Brisbane Dick Fund, 1957 · Public Domain。1400×1400へ縮小・WebP変換。トリミング・色調整なし。
写真の中央から突き出た部分と、その周囲の数字を見てください。日時計は、太陽の見かけの動きに伴って変わる影を、目盛りと対応させて時刻を読みます。写真の器具は19世紀のヨーロッパのものと推定され、先ほどの古代の区切り方を直接示す資料ではありません。
影が教えるのは、その場所から見た太陽の位置です。グリニッジの博物館の解説は、日時計が示す時刻と、太陽の動きを平均して定める時刻の間に、季節による差が生じると説明しています。この差が「均時差(きんじさ)」です。
地球の軌道や地軸の傾きが関わるため、日時計と一定の速さで進む時計を比べても、一年中ぴったり重なるわけではありません。また、太陽がその日の最も高い位置を通る時刻も、経度によって異なります。影を読むには、目盛りだけでなく、場所と季節も関係するのです。
地球は24時間で一回転する?
一回転を測るには、何を目印にするかを決める必要があります。遠くの星を手がかりに地球の回転を見ると、一日より約4分短い、約23時間56分という周期が現れます。「恒星日(こうせいじつ)」です。厳密な定義では、星一つではなく春分点という天球上の基準点を使います。
太陽を目印にすると、事情が変わります。地球が自転している間にも、地球は太陽の周りの軌道を進んでいます。星に対して一回転した時点では、太陽を再び同じ方向に見るために、地球はもう少し回る必要があるのです。国立天文台の解説は、この違いを地球の自転と公転の図で説明しています。
したがって、「地球の一回転」と「太陽を基準にした一日」は、無条件に同じ長さとはいえません。時計の24時間を考えるときにも、空の何を目印にしているのかを確かめると、約4分の違いが理解できます。
原子時計は、何を数えている?
現在の秒は、その日に地球が回る速さから毎回決め直す単位ではありません。国際度量衡局の定義は、セシウム133原子の、外部から乱されていない、基底状態の二つの超微細準位間の遷移に対応する周波数を使います。これは原子の中の、わずかに異なる二つのエネルギー状態の間の変化です。対応する電磁波の9,192,631,770周期分が1秒です。

Hoth and Gerginov with NIST-F4 · R. Eskalis/NIST · NIST Use of Information。1400×788へ縮小・WebP変換。トリミング・色調整なし。
写真は、米国NISTの原子時計NIST-F4です。この方式の時計では、レーザーで冷やしたセシウム原子を上へ投げ上げ、上昇時と下降時にマイクロ波と相互作用させます。原子の状態がどのように変わったかを検出し、その反応を使ってマイクロ波の周波数を原子の基準へ近づけます。
数えているのは、調整された電磁波の周期です。原子が装置の中を1秒に約92億回往復する、という意味ではありません。写真に見える機器や配線の中で、原子を準備すること、反応を読み取ること、周波数を調整することが組み合わされています。
時計の正確さは、どう確かめる?
原子を使っても、装置には磁場や温度などの影響が残ります。2025年のNIST-F4の評価論文は、それぞれが周波数をどれだけずらし、補正後にもどれだけ不確かさが残るかを調べました。原子の密度を変えて、原子同士の衝突による影響も評価しています。
研究では5回の測定期間を設け、水素メーザーという別種の原子時計などを介して、他の周波数標準の集まりと比較しました。結果は測定の不確かさの範囲で一致しています。ただし、これは両者の差が完全にゼロだと証明した、という意味ではありません。
不確かさは、測った値をどこまで信頼してよいかを表す幅です。論文が報告した、系統的な影響に関する相対周波数の不確かさは2.2×10⁻¹⁶です。これは評価した装置と条件についての値であり、比較の経路や測定期間にも別の不確かさがあります。すべての原子時計にそのまま当てはめられる性能ではありません。
さらに2026年の訂正では、新しい測地資料に基づく重力の影響や、その不確かさなどが更新されました。訂正後の表でも、系統的な影響の合計の不確かさは2.2×10⁻¹⁶です。科学の数値を読むときは、発表時の見出しだけでなく、何を測り、その後どこが直されたかまで確認する必要があります。
日時計の影と、原子に合わせた電磁波。どちらも、繰り返す現象を時間の物差しにしています。ただし、物差しの作り方も、確かめ方も異なります。時計を見るとき、「何時か」に加えて「この1秒を、どう確かめたのか」と考えると、身近な数字の奥に実験が見えてきます。
