コーヒーをこぼした跡は、なぜ外側だけが濃いのでしょう。手がかりは、乾く間の水の流れと、そこに運ばれる粒子です。ただし、輪の有無を写真だけで判断すると、見落とすものもあります。染みの写真から、粒子の形を変えた実験、表面の高さを測る研究へ進んでみましょう。

水が蒸発するだけで、輪になる?

中央よりも縁に濃い茶色が残った、乾いたコーヒーの染み
コーヒーを使って作られた染み(2015年撮影)。中央と縁の色の違いに注目してください。乾く途中の流れを撮影した写真ではありません。
Coffee Ring Effect using Coffee Image.png · 写真:Billclawson / Wikimedia Commons · CC BY-SA 3.0。可逆圧縮のWebPへ変換。寸法・構図・色は変更せず、同じライセンスで提供。

写真では、淡い中央を囲むように茶色い縁が残っています。これだけで乾く途中の流れは見えませんが、物質が一様には残っていないことがわかります。ここで扱うのは、こぼれた一滴が乾くときの染みです。

水滴が接している面の細かな凹凸などに縁がとどまり、動きにくくなることがあります。水・空気・固体の境目である「接触線」が固定される状態です。直径が保たれたまま水の量が減ると、水滴は平たくなっていきます。

その間、縁付近で失われた水を補うため、内側から水が流れ込みます。水中に散らばる小さな粒子も一緒に運ばれるので、縁に残る量が増えていきます。乾燥は、単に水だけが消える過程ではなく、残る物質を運び直す過程でもあるのです。研究者による解説

「外側へ流れること」と「そこで粒子が集まること」は、分けて考えられます。水の流れが似ていても、粒子が途中で別の場所にとどまれば、最後の模様は変わるかもしれません。

粒子の形を変えると、何が変わる?

2011年にPeter J. Yunkerらが発表した研究では、プラスチックの一種であるポリスチレンの粒子を水に散らし、ガラス板の上で乾かしました。同じ材質の球状粒子と、球を引き伸ばした細長い粒子を比べています。図1で示す比較は、23℃、水滴1 μL、粒子の体積割合0.5%という条件です。μLはマイクロリットルで、1 mLの千分の1です。2011年の論文

球状の粒子は縁に集まりました。一方、細長い粒子では、乾いた後に粒子がより広く分布しました。水が外へ流れなくなったのではありません。粒子が空気と水の境目に集まり、互いに結びついた構造を作ることで、縁まで運ばれにくくなったと著者らは説明しています。

細長い粒子は周囲の水面を変形させます。その変形を介して粒子同士が引き合い、ゆるくつながった集まりになる、という考え方です。表面での粒子の振る舞いを変えることが、染みの残り方を変える手段になりました。大学による研究解説

細長くすれば、いつでも輪を消せる?

ここで「細長い粒子なら輪にならない」と覚えてしまうと、条件を落としてしまいます。2026年9月に公表されたSamuel S. Nielsenらの研究は、水中のシリカ粒子を使い、球状から棒状まで形を変えて調べました。シリカは二酸化ケイ素です。この系では、棒状でも輪が残りました。2026年の論文

2011年の主な比較とは、粒子の材料や濃度などが異なります。同じ実験を繰り返して反対の答えを得た、と単純には読めません。粒子が水面にとどまるのか、液体の中を沈むのか。形以外の違いも含めて見る必要があります。

研究を日常へ結びつけるときにも、まず「何を変え、何をそろえたか」を確かめる。コーヒーの濃さや器の表面が違うのに、粒子の形だけで模様を予測するのは早計です。

写真の色が均一なら、厚さも均一?

シリカ粒子の染みを、顕微鏡写真・光の強度・表面の高さで比べる論文図。下段では写真が暗く埋まっていても高さに二つの山がある
Nielsenら(2026)の図1。上段は球状、下段は長さと幅の比が11のシリカ粒子で、粒子の体積割合はいずれも20%。左が写真、中央が光の強度から作った指標、右が高さの測定です。コーヒーそのものの測定ではありません。
Coffee-ring deposits in concentrated suspensions of anisotropic colloids — Fig. 1, APS Open Science 1, 000124 (2026), DOI: 10.1103/rzgy-j37g · 図:Samuel S. Nielsen, Brian C. Seper, Ryker Fish, Brennan Sprinkle, Michelle M. Driscoll / American Physical Society · CC BY 4.0。出版社PDFの図1の画像を抽出し、可逆圧縮のWebPへ変換。パネル・軸・単位・色・図の範囲は変更なし。

この図では、まず下段を左から右へ見てください。左の写真(d)は、中央まで暗く埋まっています。それでも、右の高さの測定(f)には二つの山があります。写真が濃く見えることと、同じ厚さで積もることは一致していません。

下段の粒子は、長さと幅の比が11。上段の比1の球状粒子と同じく、粒子の体積割合20%で比べています。写真の破線が測定した位置です。グラフの横軸はその線に沿った位置で、単位はμm(マイクロメートル)。右列の縦軸は、それぞれの高さを最大値でそろえた値なので、上下のグラフから厚さの絶対値は比べられません。

中央列は写真の光の強度から作った指標、右列は表面を測った高さです。著者らは、光の吸収が飽和して写真の濃淡が出にくくなる場合も、表面の測定なら縁の盛り上がりを捉えられるとしています。写真から形を観察することと、量を測ることには違いがあります。

身近な一滴では、何を見ればよい?

次に染みを見かけたら、外周と中央の濃さを比べてみてください。乾く途中も観察できるなら、水滴の外周が同じ場所にとどまるか、少しずつ縮むかを記録すると、乾いた後の写真だけとは違う情報が得られます。これは観察の提案で、BREWで実験を行った結果ではありません。

同じ場所を時間をおいて撮るときは、照明やカメラの向きもなるべくそろえると、見え方の変化を比べやすくなります。それでも、家庭の写真だけから粒子の速度や染みの厚さを測定したことにはなりません。

均一な膜を作りたい印刷や塗装にとって、乾く途中で物質が偏ることは課題になります。大学の研究解説も、粒子の形を変える方法を、こうした加工へつながる知見として紹介しています。身近な染みを説明する問いが、材料をどこに残すかという問いにつながるのです。応用についての解説

水滴の中で何が動き、最後に何が残ったのか。茶色い輪は、その過程を考える入口になります。