氷が水に浮くのは、同じ体積で比べると氷のほうが軽いからです。でも、もとは同じ水なのに、なぜ凍ると違いが生まれるのでしょう。目に見えない分子の並び方と、目の前のコップで起こることをつないでみます。

Iced tea with ice cubes · 写真:Editor at Large · CC BY-SA 2.5。縮小・WebP変換。画像は同ライセンスで提供。
水が凍ると、分子はどう並ぶ?
液体の水では、水の分子どうしが引き合いながら、互いのそばを動き回っています。冷やすとその動きが鈍くなり、やがて分子が一定の位置に並んだ氷になります。ここで意外なのは、ぎゅっと隙間なく詰まるわけではないことです。
ふだん目にする氷では、分子が六角形の輪をつくるようにつながり、立体的に規則正しく並びます。この配置では、液体のときより分子の間が広がります。水そのものが増えなくても、全体として占める場所は大きくなるのです。
また、氷の中の分子が完全に止まっているわけでもありません。位置は保たれていますが、その場で振動しています。「液体は動く、固体は止まる」と捉えるより、分子が互いをすり抜けて移動できるかどうかを見ると、違いがわかりやすくなります。
分子がつながる方向にも理由があります。水分子どうしの結びつきである「水素結合」は、四つの隣接する分子へ向かう配置を取れます。密に詰まることだけでなく、結合の向きが全体の構造を決めるのです。2015年のレビュー論文は、この結合と水の特殊な性質を結びつけて整理しています。レビュー論文
ほかの物質も、固まると広がる?
水のふるまいは、多くの物質とは逆です。多くの場合、液体が固体になると、物質をつくる粒子はより近くに集まります。水は固まる際に分子の間が広がるので、「固体は液体よりぎっしりしている」と一律にはいえません。
その違いを比べる物差しが、密度です。密度は、一定の体積にどれだけの質量があるかを表します。同じ大きさの箱に同じ重さの玉を入れるなら、隙間の少ない並べ方ほどたくさん入ります。水と氷でも、同じ体積に入る分子の数が違う、と考えることができます。
逆に同じ量の水を凍らせると考えれば、質量は同じままで体積が増えるので、密度は小さくなります。「同じ体積を比べる」のか「同じ質量の変化を見る」のか。この二つを分けると、凍ると広がることと、水に浮くことを結びつけられます。
物体が水に入ると、その分だけ水を押しのけます。水から受ける上向きの力「浮力」は、押しのけた水に働く重力と同じ大きさです。物体自身に働く重力と浮力がつり合うところで、浮いたまま静止します。これがアルキメデスの原理からわかることです。
氷の密度を水の約9割とすると、体積の約9割が水中に入ったところでつり合います。「浮く」は、全体が水面上に出ることではないのです。密度を変えて比べる図で、半分が水に入る場合や、全体が入っても沈む場合も確かめられます。
コップの氷から、水の動きも見える?
浮いた氷を眺めるだけでなく、その周りの水にも注目してみましょう。アメリカ化学会の教材では、常温の水に氷を入れ、冷たい水が沈むことで起こる混ざり方を観察しています。
試すなら、透明なコップ二つに同じくらいの常温の水を入れます。食用色素をスポイトでそっと底に置き、片方にだけ氷を入れて、かき混ぜずに見比べます。氷を入れた側で色が動きやすくなるのは、氷の周りの冷たい水が沈み、底の色のついた水を押し動かすためです。色素を落とす勢いや氷を入れたときの揺れでも混ざるので、操作は静かにそろえます。
ただし、「水は冷たければ冷たいほど沈む」とは覚えられません。通常の圧力では、純粋な水の密度が最大になるのは約4℃です。0℃に近い水は、4℃の水より密度が小さくなります。常温の水と氷の周りの水を比べた観察を、あらゆる温度の水へ広げないことが大切です。
氷が浮く位置にも、溶けながら生まれる水の動きにも、密度の違いが表れています。いつものコップの中にも、分子の並び方を手がかりに考えられる変化があります。
水は、凍る前から変わった性質を持つ?
水の特殊さは、氷になる瞬間だけに現れるわけではありません。約4℃で密度が最大になることも、その一つです。下の論文の図では、いちばん上の青い線に注目してください。右から左へ温度が下がると、密度はいったん増え、約4℃の山を越えると減り始めます。

The structural origin of anomalous properties of liquid water, Fig. 1 · 図:Anders Nilsson・Lars G. M. Pettersson / Nature Communications · CC BY 4.0。WebP変換。図中の内容・範囲は変更なし。
レビュー論文とは、一つの新しい実験だけでなく、複数の測定や理論を見渡して整理した論文です。この図も、水の性質の傾向を典型的な液体と比べるためのものです。写真が見せる「浮いている」という姿と、図が整理する「温度によって密度がどう変わるか」は、異なる情報を補い合っています。
このレビューでは、水の局所的な構造がどう揺らぐかという説明も議論されています。ここで「液体の水の中に、小さな氷の粒が浮いている」と読み替えるのは不適切です。分子の並び方についてのモデルと、固体の氷があることは違います。既知の密度の変化と、その微視的な説明を区別する必要があります。
分子の変化は、実験でどう調べる?
Kimらの2020年の実験論文は、高密度の非晶質氷を赤外線レーザーで急速に加熱し、X線レーザーで構造の変化を調べました。非晶質とは、ふだんの氷のような長い範囲での規則的な配列を持たない状態です。実験論文の要旨
報告された温度は205±10 K、摂氏ではおよそ−68±10℃です。急加熱直後の内部圧力は2.5〜3.5キロバールと推定されました。減圧しながら変化する試料で、低密度の液体領域が現れて育つ過程と、結晶化する過程を、異なる時間帯のX線測定から追っています。
著者らは、この時間の違いを、過冷却水の液体どうしの転移を支持する結果と解釈しました。「過冷却」は、通常なら凍る温度より低くても液体が保たれていることです。ただし、この特殊な実験は、常温のコップの水が目に見える二層に分かれると示したものではありません。また、ここで紹介した数値と結論は公開要旨で確認できる範囲です。
氷が浮くことを説明するには、まず密度と分子の配置を押さえれば十分です。その先で研究者が確かめるのは、目に見える性質と分子の状態が、どの温度・圧力・時間でどう結びつくかという問いです。一杯の水から出発しても、観察する条件を細かくすると、研究の問いはさらに奥へ続いていきます。

