秋の葉は、緑が抜けて終わるだけではありません。黄色が見えてくる葉もあれば、赤い色素を新しく作る葉もあります。もうすぐ落とす葉に、なぜ材料を使ってまで赤い色を足すのでしょうか。

1分の記事で見た色素の違いから、落葉前の栄養の回収、葉の付け根で起こる変化、赤い色素の役割を調べた研究へ進みます。ハウチワカエデの写真と二つの論文を手がかりに、分かっている仕組みと、まだ確かめたい説明を分けてみましょう。

黄色と赤は、どう違って現れる?

緑の葉の間に、黄色の葉と赤く色づいた葉が広がる枝
緑・黄・赤が並ぶ葉。2025年4月14日、ニュージーランドのKellands Pond付近で撮影。同じ葉の変化を順に撮った写真ではありません。
Bright red and yellow leaves among green leaves.jpg · 写真:Pseudopanax · Public Domain。6240×4160から1400×933へ縮小・WebP変換。BREWによるトリミング・色調整なし。

写真の黄色い部分と赤い部分を見比べてみてください。ここには同時にいろいろな色の葉が写っていますが、この1枚だけから、どの色が先に現れたかまでは分かりません。

葉の色を作るのは色素です。緑のクロロフィルが減ると、もともとある黄色いカロテノイドが目立つようになります。一方、赤い紅葉ではアントシアニンの合成が加わります。森林総合研究所の解説が分けているのは、この「残った色が見える」と「色素を作る」の違いです。

比べる点黄色くなる葉赤くなる葉
主に注目する色素カロテノイドアントシアニン
秋の変化緑が減り、黄色が目立つ赤い色素が新しく作られる
見方の注意赤くなる前段階とは限らない緑の色素が赤へ変化したわけではない

葉の色は、ひとつの色素だけを切り替えるスイッチのようには変わりません。残っている緑と現れてきた色が重なる途中もあります。まずは「何色になったか」と「どの色素が増減したか」を分けると、仕組みを追いやすくなります。

落ちる前の葉では、何が回収される?

葉には、植物が次の成長にも使える窒素などの養分があります。落葉する木にとって、それをすべて葉につけたまま失うことは負担になります。落葉前には、葉から木のほかの部分へ養分を戻す過程が進みます。森林総合研究所の2024年の研究紹介も、ハウチワカエデが秋に葉の窒素を回収する時期に注目しています。

つまり、色づいた葉は、すでに何もしていない抜け殻とは限りません。見た目の変化と並行して、木の中では物質が移動しています。「緑が減る」「養分を回収する」「葉が離れる」という出来事を、同じ瞬間に起こることと考えないほうがよいのです。

この順番は、研究の問いにもなります。もし葉が枝から離れる準備のために、養分を運ぶ道が先に完全にふさがるなら、回収はいつまで続けられるのでしょうか。葉の色を見るだけでは、その道が通じているかは確かめられません。

日なたと日陰では、色づく順番が違う?

ハウチワカエデの日なたと日陰の葉を日付ごとに並べた研究写真と、秋の樹全体の写真
Yazakiほか(2026)の図2。左のaは、open(日なた)とshade(日陰)の葉を、上から9月8日・24日、10月5日・19日・25日の順に比較。各日に採取した葉で、同じ1枚を追った写真ではありません。右のbは調査した木の10月5日・25日、11月2日の姿です。
Timings of leaf abscission… — Figure 2 · 図:Kenichi Yazaki・Chunhua Zhang・Hisashi Abe・Mitsutoshi Kitao(2026), Trees 40, 43, Fig. 2 · CC BY 4.0。出版社掲載の1200×1624 PNGを同寸のロスレスWebPへ変換。全パネル・日付・比較ラベルを保持。トリミング・色調整なし。

矢崎健一さんらが2026年に発表した研究では、札幌にあるハウチワカエデの成木1本を調べました。主な調査は2020年の8月から11月。南向きの樹冠、つまり枝葉が広がる部分の外側と内側で、日なたと日陰の葉を比べています。

図の左側では、同じ日付の横一列を見ます。9月24日(Sep 24)のopenには赤い部分が広がっていますが、shadeには緑が多く残っています。次に列を下へたどると、日陰の葉にも赤い部分が現れます。これは各日に採った葉の比較で、同じ1枚を撮影し続けた記録ではありません。

調査では各条件から各日に4枚の葉を選び、窒素・糖・デンプンや、反射した光から求めた色素の指標を測定しました。葉の付け根の組織も顕微鏡で観察しています。写真の見た目に加えて、葉の中身と付け根を調べたところに、この研究の意味があります。

葉の付け根がふさがるから、赤くなる?

葉柄は、葉と枝をつなぐ柄の部分です。その付け根付近には、葉を切り離す過程に関わる「離層」があります。従来、離層の発達で養分を運ぶ道がふさがれ、糖が葉にたまるため赤い色素が作られる、という説明がされてきました。

しかし2026年の論文では、日なたの葉でアントシアニンの指標が上がり始めたのは、離層で細胞の崩壊が見えた10月5日より前でした。色づく時期は違っても、崩壊が確認された時期は日なたと日陰で同じでした。

さらに、葉の窒素は落葉期まで減り続け、組織の観察でも養分を運ぶ道の物理的な閉塞は確認されませんでした。研究者は、離層が発達しても窒素の回収が続くと解釈しています。少なくとも、この木では「道がふさがることが赤色化の出発点」という単純な順序では説明しにくかったのです。

ただし、これは1本の木を追った観察です。すべての樹種の仕組みが否定されたわけではありません。また、物質の流れそのものを直接撮影した結果でもありません。色づきの時期、組織の姿、成分の変化を組み合わせて考えた説明です。

赤い色素を作ることには、どんな役割がある?

光を遮って葉を守る、という仮説に加え、色素を「作る過程」に注目した研究があります。北尾光俊さんらの2024年の論文は、同じハウチワカエデの成木で、主に2021年の変化を追いました。日当たりの異なる3か所で、光合成の働き、糖・デンプン・窒素、色素、遺伝子の働きなどを比較しています。

糖をたくわえる形の一つであるデンプンは、秋の終わりに減っていました。一方、乾燥した葉の重さあたりで見ると、糖は増加した後に頭打ちとなり、その間にもアントシアニンは増えていました。研究者が提案したのは、赤い色素の合成が糖を使う受け皿になる、という役割です。合成にエネルギーを使うことも、葉が受け取る光のエネルギーを処理する助けになる可能性を示しました。

研究機関の解説では、デンプンを作らなくなった葉で糖の上昇が続くと、老化が早まるおそれがあると説明しています。そのため、糖をほかの物質に変えることには、単に色を付ける以上の意味がありそうです。

ただし、色素の合成だけを止めて役割を切り分けた実験ではなく、変化の組み合わせから立てた解釈です。赤ければ必ず養分を多く回収できる、とは言えません。2026年と2024年の論文も、別々の木で再現した二つの証拠ではなく、同じ個体を異なる角度から調べた研究として読む必要があります。

身近な紅葉では、どこを見ると面白い?

まずは同じ木で、外側のよく光が当たる葉と、内側の葉を見比べてみます。色の違いがあれば、日付と枝の位置を記録しておくと、次に見るときの目印になります。写真にするなら、光の向きや露出の違いで色の印象も変わるため、できるだけ似た条件で比べたいところです。

これは研究結果を自分の木で証明する実験ではなく、問いを見つける観察です。木の種類も生育環境も違い、写真だけでは色素の量や窒素の回収は測れません。それでも、「外側と内側は同じように変わるか」「色づいてから、いつ葉が落ちるか」と問いを分けることはできます。

黄色が見える理由と、赤い色素を作る役割。その先には、葉を落とすまでに何を使い、何を木へ戻すのかという問題があります。秋の色を眺める時間は、葉の最後の仕事を考える時間にもなるのです。