おいしいものを食べた瞬間や、ほしかったものを手に入れた日。私たちはそんなとき「幸せ」と言います。では、幸せに生きるとは、うれしい瞬間をたくさん集めることなのでしょうか。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、『ニコマコス倫理学』で幸福を考えました。そこで使われる「エウダイモニア」は、幸福と訳されますが、そのときの気分だけでなく、「よく生きる」ことを指しています。

彼が重視したのは、理性を働かせ、人としてのよさを実際の行いに表すことでした。たとえば、正しさを知っているだけでなく、判断し、行動すること。幸福を、持っている状態よりも、生きる活動として捉えたのです。短い一場面ではなく、人生全体を見る視点でもあります。

ただし、心がけさえよければ何があっても幸福だ、という単純な話ではありません。友人や生活のための財産など、外から与えられる条件も必要だと彼は考えました。「いま、楽しいか」に加えて、「どんなふうに生きているか」。彼の問いを借りると、同じ幸福ということばが少し違って聞こえます。